あまがさの日記のようなもの

書きたい時に書く日記のようなブログです。

書店員の喜び

私が書店員になって4年、その中でも特に嬉しかったことを思い出して書く。

一番の喜びは忘れもしない、小説版『幼女戦記』の二巻が売れた時である。

私はカルロ・ゼン先生の『幼女戦記』という作品が大好きだ。

好きすぎてWeb版を読破し、アニメも何周も見て、映画が放映された時は狂喜乱舞し映画館に見に行ったし、展示会にも行った。小説は自分用と布教用で二冊購入し、友人に貸して回った。

そんな私が書店員になった時、何がなんでも『幼女戦記』を売ろうと思った。

当店の『幼女戦記』の売上は悪く、何冊も返品しているのを在庫管理システムで確認し、物凄く悔しかった。こんなにも面白い作品が売れず、埋もれて、返品されていくのかと思うと悲しくて悔しくて、怒りさえ湧いた。

まず私はこの店でPOP担当者になろうと思った。POP担当者になれば多少の権限が与えられる。当時、当店にPOP担当者が居なかった。チャンスだった。

私は幼少期から絵を描くのが好きだったこともあり、POPを描くのは楽しかった。そして事ある毎に「そのPOP、私が描きます!」と立候補し続けた。

続けているとある日突然、「amagasaさんがPOP担当ね」と言われたのだ。私の時代が来たと思った。

店として売りたい本のPOPは当然ながら、個人的に好きな作品のPOPを描きまくった。描いて描いて貼りまくった。

文芸書担当者、コミック担当者、というように当店では割り振りが決まっているのだが、担当者と交渉しながらPOPを描いて貼りまくった。

勿論『幼女戦記』のPOPも書きまくった。しかし、売れなかった。

意味がわからなかった。POPを見たよと、漫画を買ってくれる人がいた。POPを見て面白そうだと小説を手に取ってくれる人がいた。何故、『幼女戦記』は売れない?

本に優劣をつけるのは好きではないが、正直言って『幼女戦記』は群を抜いて面白い。擦り切れるほど読んだ。読んで大笑いして、胸が締め付けられる思いがして、主人公に惚れ込んで、こんなに好きな主人公居ないぞと思った。なのに何故?何故売れない?意味がわからなかった。

私は当店のボスに相談した。小さくても良いので『幼女戦記』のコーナーを作らせて欲しいと頼み込んだ。

売れていない本のコーナーを作るほど当店に余裕はない。でも、どうしても売りたかった。こんなにも面白い本を埋もれさせてはいけないと本気で思った。

許可が得られるまでもPOPを描き続け、遂にボスに「amagasaさんが全部やるなら……まぁいいよ」と許しを頂き、私は小さなテーブルと柱の前のスペースを貸してもらった。

伝説が始まる!……訳もなく、幼女戦記はそれからも暫く売れなかった。

私の描いたPOPが悪かったのかと思い何度も書き直した。なぜ伝わらない?

そこで突然気づく。この本、分厚すぎるぞ、と。読書が好きすぎるが故に気づいていなかった。文字は多ければ多いほど楽しみが増えるのでハッピーだと思っていた。

一冊千円強、ハリーポッターレベルの厚み、持ち運びに不便な重さ。

確かに、読書好きではないと読む気にならないかもしれない。漫画や文庫本のような手軽さがない。

今までのやり方ではダメだ。一冊読ませられれば面白さに気づくのだから、主人公の可愛さで釣ろう。

見た目は可愛いのだ、可愛く可愛くPOPを描こう。白銀のターニャだもの、営業活動も頑張ってくれる。

幼女要素でゴリ推してみようと思ったが、直ぐに失敗に気づいた。題名が『幼女戦記』なのだ、どう考えても萌え作品ではない。諦めた。

そんな日が続いた。シフトの度に幼女戦記のコーナーの前をうろ付き、売れていないか、POPがよれていないか、埃は付いていないか、陳列は綺麗か確認した。

それでも売れなかった。助けて欲しかった。一冊、手にとってもらえれば次巻も売れるはずだった。

ある日、大きなPOPを書いた。普通のPOPの大きさではダメだ。特大サイズにしよう。そして文字を大量に書いてやる。

わかりやすいPOPなんかもう要らない。私の主義主張を押し出した ※文字圧POP を作ろう。

全員に受けるPOPじゃなくていい、私と同じ嗜好の人に刺さればいい。(※文字圧POPは私の造語です。)

この小さなテーブルをPOPで埋めてやる。みろ、私の愛を。書店員がこんなにも愛している作品ぞ。見てくれ!!!!!

エプロンにバッジだって付ける。大切に仕舞い込んでいたけれど付けることで宣伝効果があるかもしれない。布教活動はまず自分から。

しばらく経って、売れた。衝撃だった。ようやく売れた。私の愛が伝わった。

幼女戦記』第一巻が売れた!!!嬉しかった、報われたと思った。

そしてその一週間後、『幼女戦記』第二巻が売れた。

勝ったと思った。この長い戦いに勝った。

私は正しかった。一巻を手に取ってもらえさえすれば必ず、二巻も売れると信じていた。だからこそ、最新巻までの在庫を揃えていた。

普通売れない作品は一巻、二巻、飛ばして最新巻という並べ方をしているのだが、『幼女戦記』は絶対に売れると思ったから最新巻まで陳列していた。私の熱い思いを見てくれ。

それから最新巻まで一冊ずつ売れた。当店に『幼女戦記』の常連ができた。『幼女戦記』の続きをレジに持ってきたお客様に遭遇した時、本当に嬉しかった。

「ありがとうございました、またのご来店をお待ちしております」

いつもよりずっとずっと深く頭を下げた。ありがとう、書店員としてこんなに嬉しいことは無い。

二巻が売れた日、コンビニでケーキを買って帰った。家に帰って嬉しさのあまり泣いた。本当に嬉しかった。売れるようになるまで暫く掛かってしまったが、私の長い長い戦いがひとつ終わった気がした。

愛すべき作者様、出版社、取り次ぎ、書店……その他関係者各位と私でこの一冊を売ったんだ!と誇らしかった。

今、『幼女戦記』は売れている。あの頃には考えられなかったほどに。在庫が切れないようにシフトの度にコーナーに行って確認し、発注を掛けている。

万引き犯が『幼女戦記』のコーナーの周りをうろつき、コーナーの隣でリュックを開け始めた時は全身の血が沸騰して死ぬかと思った。

ハタキを握りしめて万引き犯の隣まで走り、睨みつけてしまった。万引き犯が退店した後、危ないからやめなさいと注意を受けたが、後悔はしていない。

幼女戦記』が売れるようになってからしばらく経って、売上が落ち込んだ時があった。

私は自分用に買ったコンプエースの付録、『幼女戦記』の主人公であるターニャちゃんの等身大ポスターをコーナーの壁に貼った。(二枚買えばよかったと本気で後悔してます)

壁に貼られたターニャちゃんは目立ち、コーナーに人を集められるようになった。小さなテーブルと柱の前のスペースに人がぽつぽつと訪れるようになった。

嬉しかった。また少しづつ売れてくれている。私の行動は無駄ではなかった。

書店員になってから様々なことがあったが、やはり一番嬉しかったのは『幼女戦記』二巻が売れたあの日だな。間違いない。

因みに、『テロール教授の怪しい授業』『売国機関』も頑張って売ってます。

特にこの時期は(上手くやると)テロール教授は良く売れますね。新入生に響くPOPをば……。

カルロ・ゼン先生の珈琲代くらいにはなってくれているといいな。

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書店員は薄給だ。書店の経営が苦しいから当たり前である。

書店員はクレーム対応も多い。金銭を支払わず入れる店は共通してクレームが多い傾向があるだろう。

書店員は不器用だと辛い。カッターとハサミくらいはまともに使えないと仕事にならないし、クリスマス時期は一日中プレゼント包装に追われる。予算不足からの人員削減でレジに居られる人は少ない為、書店員の大半が包装できなければならない。

書店員は本が好きでないと務まらない。問い合わせは毎日数え切れないほどある。出版社名を聞いて場所がすぐ分かる様にならねばお客様の問いには答えられない。

書店員は本の知識が必要だ。孫にプレゼントがしたい、3歳児におすすめの本を、入院中におすすめの本は?、面白いミステリーを教えてくれ、本の相談を受けたとき自信を持って本をおすすめする為には自分の脳内に情報がなければならない。

少しゲンナリした人もいるかもしれない。でも、それらを凌駕するほどの喜びがここにあると思う。やりがい搾取?やりたくてここにいるんだからいいでしょ。

数え切れないほどの本に囲まれて働ける。共に働く人が皆、本好き。本が社割で買える。本との出会いの場を作れる。

何よりも、自分の大好きな作品をお客様におすすめできる。

自分の手で応援したい作家の本を売る喜び、一体感?愛書家の皆様に一度味わって見てほしいな。

書店員になれて良かった。なって良かった。

全ての本を愛する人に幸あれ!

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この写真を撮る時、七巻、十巻、十一巻が売れていました。発注しなきゃ〜!!!

今回はこの辺で失礼します。関連ブログ🔗